ナフサを買い占めた業者はどこ?政府が名前を出せない本当の理由と「三つの目詰まり」の正体【2026年最新】

ナフサを買い占めた業者はどこ?政府が名前を出せない本当の理由と「三つの目詰まり」の正体【2026年最新】

仕入れ先から「シンナーは当面、入荷未定です」と告げられた塗装業者が、SNSで「ナフサ買い占め業者はどこ?」と検索し始めています。先月も同じ言葉を聞かされ、来月の施工スケジュールが組めない。そりゃ調べるよな、というのが正直なところでしょう。

政府は「在庫は足りている」「年を越えて供給できる」と繰り返しています。なのに現場には届かない。この矛盾の正体が「流通の目詰まり」という言葉で説明されているのですが、何がどう詰まっているのか、意外とどの報道も丁寧には教えてくれません。

この記事では、ナフサ買い占め業者がどこなのかという問いに向き合いながら、政府・業界団体の公式発言と経産省の一次資料をもとに、「なぜ名前が出ないのか」「目詰まりの構造は何層あるのか」「川下の中小事業者として今できることは何か」を整理しています。

先に結論を言うと、2026年5月末時点で特定企業の名指しはされていません。ただ、それより深刻な話が構造の中に埋まっています。

この記事でわかること

  • ナフサ買い占め業者が特定されない理由
  • 三つの目詰まりが生じた川上・川中・川下の構造
  • 政府の「在庫は足りている」発言の数字の裏側
  • 中小事業者が今すぐ動ける代替調達・相談窓口
  • コメ騒動と比較して見えるナフサ問題の本質

ナフサ買い占め業者はどこ?現時点でわかっていること

ナフサを買い占めた悪者はどこにいる?

萩生田発言の「業者名公表」は実現したか

2026年5月26日、自民党の萩生田光一幹事長代行が政治系YouTube番組「魚屋のおっチャンネル」に出演しました。

萩生田氏はシンナーの流通経路を調べた際のこととして「詰まっているところが分かった。本当は業者名を言ったほうが世の中に早く流れるが、それは勘弁してくれということで」と語り、在庫を抱え込まず出荷するよう促しているとの内容を説明しました。

この発言がSNSで一気に拡散して、「ついに業者名がわかった」という見出しが広まります。

ただ、冷静に発言を読み直すと、「業者名がわかった」と「業者名を公表した」はまったく別の話です。業者名や具体的な数量、どの段階でどれだけ詰まっているのかは、現時点で公表情報からは確認できません。

「名前は知っている、でも言わない」というところで、話は止まっています。

犯人は存在しない。令和の米騒動と同じ構図

「業者に圧力をかけて在庫を出させる」という手法は、一定の効果があるかもしれません。萩生田氏自身は「一回落ち着こうよ、と。出してくれ、と。

『全体量はある』といくら政府が説明しても、みんなイライラしています。この1週間、2週間がちょっと勝負だ」と述べています。企業名も具体的なデータも伏せられたまま「やってる感」だけが先行しているように見えるのは、私だけではないはずです。

自工会・日本商工会議所の公式認識

日本自動車工業会(自工会)の佐藤恒治会長(トヨタ自動車副会長)は5月21日の記者会見で、「一部で過剰な購入などがみられる。昨年の購入量を基準に適正な取引を呼び掛けていく」と述べ、「買い占め」防止に努める考えを強調しました。

日本商工会議所の小林会頭も同様の問題を指摘しています。流通過程にある各企業が将来の供給不安から在庫を多く持つようにしていることが目詰まりの原因になっているとして、解消に向けて会員企業に買いだめなどを控えるよう協力を求めました。

ここが重要なポイントです。「過剰な購入がある」と言いながら、「特定企業が在庫を独占している」とは誰も言っていません。

政府や業界団体はいずれも特定企業による在庫独占を確認しておらず、買い占めの主体を名指しできる状況にもないのです。

実態はこうです。供給が不安定化するとの見通しが広がる中で、サプライチェーンに属する多くの企業が将来の欠品を恐れ、通常より多めに在庫を確保しようとした。全国の企業が「念のため多めに」という判断を同時に行った結果として、目詰まりが起きているわけです。

「犯人探し」より重要な構造的な問題

少し話を遡らせてください。2024年の令和の米騒動を覚えているでしょうか。あのとき政府は「流通業者が買い占めている」という説明を繰り返しました。

でもその後、農水省自身が「需要増が主因であり、特定の買い占めは確認できなかった」という趣旨の報告を出しています。「誰かが悪い」という説明は対策が後回しになりやすいパターンで、コメの時も今回も、その構図がよく似ています。

そもそも原料の生産自体が激減している

ただ、一点だけ正直に言うと、今回の話がコメと全く同じだと断言はできません。シンナーの原料となるトルエンは確かに生産が落ちています。

経済産業省の鉱工業指数(IIP)によると、4月の純トルエン生産量は前年同月比42.5%減。出荷量に至っては67.3%減と、さらに大きく落ち込みました。また石油化学工業協会(JPCA)の公表データでも、トルエンの生産量は前年同月比12%減となっています。

「量はある」と「必要な種類が届く」は別の話で、そこを混同して安心するのはまずいと思っています。

ナフサ問題を理解するための流通構造

製油所から現場まで「4段階」の流れ

少し視点を変えて、自分が問屋の担当者だと仮定してみてください。石油化学メーカーから「5月以降の供給量は未定」という連絡を受けた翌日、あなたは取引先への出荷量を増やしますか、減らしますか。

合理的に考えれば、当然減らします。それが全国の卸・問屋で一斉に起きたとき、「誰も特別な買い占めをしていないのに、川下には届かない」という状況が生まれます。

ナフサが現場に届くまでの4つの関所

まず、ナフサが現場に届くまでの流れを整理しておきましょう。

  • 川上:製油所・石化メーカー(原油からナフサを精製し、エチレン等を製造)
  • 川中①:商社・卸(ナフサや化学品を買い付けて国内に流通させる)
  • 川中②:シンナーメーカー・樹脂メーカー(化学品を製品に加工)
  • 川下:塗装業者・包装材メーカー・小売(最終製品を使う現場)

「量はある」でも「必要な種類が届かない」という状況の背景には、この多段階構造の中で各層が独自判断で出荷量を絞り込んでいる実態があります。

川上にある在庫が川下に届くまでに、少なくとも3〜4回の「絞り込み」が重なり得るのです。

ちなみに、経済産業省の資源エネルギー庁は石油統計速報を毎月公表しています。ナフサの月次在庫量や生産量の推移はここで確認できます。

政府が言う「三つの目詰まり」の正体

政府が指摘した「三つの目詰まり」の正体

5月21日の関係閣僚会議で、高市首相は具体的な目詰まりの構造を3つ挙げました。

石油化学メーカーが翌月の原料供給量を未定としたことで

  • 商社やメーカーが供給量を絞るケース
  • シンナーの供給が回復しても取引先にすぐに伝えなかったケース
  • 大規模な工事を請け負った塗装事業者が供給不安からシンナーを一括発注したケース

の3つです。

これを見ると、悪意のある「買い占め犯」がいる話ではないとわかります。各段階で合理的に行動した結果として詰まっています。

「ナフサ製品の不足懸念が広がり、急激に需要が増えたのが原因。商品自体がないのではなく、企業が出せる状況にないのではないか」という指摘も、そこを突いています。

参照:中東対応を踏まえた石油由来の化学品・製品等の状況

「在庫4か月分」という数字の内訳を見てみると

「政府は4か月分と言ってるじゃないか」と思われる方も多いはずです。ここが少し複雑なので整理しておきます。

高市首相は2026年4月初旬の時点で「少なくとも4カ月分の需要を満たせるナフサを確保している」と発表しました。

が、これは調達済み輸入ナフサ・国内精製2か月分に、ポリエチレンなど中間化学製品の在庫2か月分を合算した計算です。純粋なナフサ在庫が4か月分あるわけではありません。

わかりやすく言うと、手元の現金2万円と商品券2万円を合わせて「4万円持っている」と言うようなもので、現金と商品券は使える場面が違います。ナフサ本体の在庫と、すでに加工済みの中間製品の在庫は、川下の現場にとって使い勝手が全然違うのです。

手元の現金2万円と商品券2万円を合わせて「4万円持っている」と言うようなもの

さらに、例年の8割程度の供給能力にとどまっているため、何も対策を講じなければ徐々に在庫が減っていく可能性もあります。「足りている」と「安心していい」は、必ずしも同じではありません。

なぜ精製会社はナフサをもっと作らないのか

他ではあまり触れられていない話ですが、「ガソリン補助あり・ナフサ補助なし」という制度の非対称性が、精製会社の優先順位に影響しています。

政府はガソリンの小売価格を全国平均で1リッター当たり170円程度に抑制するための補助を実施しています。しかしナフサへの直接補助はありません。

採算の合いにくいナフサを後回しにするのは経営として合理的な判断

精製会社にとっては、補助金で利益が保証されるガソリンを優先して、採算の合いにくいナフサを後回しにするのは経営として合理的な判断です。

これが「経済的な目詰まり」の正体です。悪意ではなく、補助制度の設計上の問題が川下の現場に皺寄せとして来ています。

受注を抱えながら材料が入らない塗装業者からすると、「なんで自分たちだけ」という怒りは当然でしょう。その怒りの向く先は、実は個別の業者ではなく、制度設計の問題なのかもしれません。

中小企業が特に影響を受ける「在庫の偏在」問題

もっとも影響を受けるのは中小事業者

帝国データバンクの調査では、化学製品メーカー52社から直接・間接的(二次流通まで)に仕入れる製造業は全国で約4万7,000社にのぼり、集計可能な製造業全体の約3割がナフサ関連製品の調達リスクに直面する可能性があるとされています。

その9割が資本金1億円未満の中小企業です。大手は長期契約で自社向けをある程度確保できますが、一人親方や中小事業者はスポット市場での調達を余儀なくされます。

「創業から16年で、経営は今が一番厳しい」。あるリフォーム会社の社長は、防水シートが5割、塗料や屋根瓦は3割上昇していると語りました。受注しても工事を進められない状況は、塗装業者だけでなく、全国の建設・リフォーム現場で広がっています。

価格面でも深刻です。2026年2月以降、シンナーの価格が最大で75〜80%という値上げ幅を記録しています。これまで1缶4,000円程度だったシンナーが、実勢価格で15,000円を超えるケースも出ています。

3〜4倍の価格で入手できても、見積もりの段階で価格が変わりすぎて契約が結べない。ここが現場の本当の詰まりです。

まとめ:ナフサを買い占めた業者がどこかよりも知っておくべきこと

「ナフサ買い占め業者はどこ?」という問いへの答えは、「2026年5月末時点で、特定企業の名指しはされていない」です。萩生田氏が「名前はわかっている」と言ったのは事実ですが、公表には至っていません。

ただ、この問いの立て方そのものを一度疑ってみてほしいのです。「悪い業者が一社いて、それを排除すれば解決する」という話であれば、政府がとっくに動いているはずです。

実態は、川上・川中・川下のそれぞれで「合理的な自衛行動」が重なった結果の目詰まり。問題の本質は特定企業の買い占めではなく、サプライチェーン全体の行動が市場の逼迫感を強めているという点で、業界団体自身もそれを認めています。

もう一つ、見落とされがちな話を付け加えます。

日本はナフサ輸入の約74%を中東産に依存しており、原油には国家備蓄(約250日分)が整備されているものの、ナフサには国家備蓄制度がありません。

危機に弱すぎる日本の備蓄構造

原油には250日分の備蓄があるのに、ナフサの民間在庫は平時で約20日分しかない。この非対称性は今回の危機が去っても変わりません。危機が去った後に制度が見直されるかどうか、2026年秋以降の政策動向を注視する必要があります。

今すぐできる行動リスト(中小事業者向け

中小事業者が今すぐできる4つの行動

業者名を探す時間があれば、代わりにこちらを試してください。

  • 経産省の情報提供窓口に連絡する:
    資源エネルギー庁の情報提供窓口(bzl-gasoline-information@meti.go.jp)は、燃料油や石油製品等の供給について、買い占めや売り惜しみなどの影響が生じる場合に備えて、事業者や消費者からの情報提供を受け付けています。

    「シンナーが入荷未定と言われた日付」「取引先の業者名」「数量」を具体的に書いて送ると、政府が動ける根拠が増えます。情報提供が集まれば集まるほど、対策の精度が上がるのです。
  • 代替品・代替業者の候補を一つ動かし始める:
    塗料メーカー各社が水性塗料や代替溶剤の採用を推奨しています。すべてを切り替えるのは難しくても、一部案件で試すことからはじめられます。
  • 取引先への情報共有を早める:
    シンナーの供給が少し回復しても、川中が取引先に伝えないケースが目詰まりの一因でした。自分が川中の立場になるときは、情報を止めない意識が大切です。
  • 中小企業庁・商工会議所の緊急相談窓口を使う:
    資金繰りへの影響が出てきた場合、各都道府県の商工会議所には中小企業向けの緊急融資・相談窓口が設けられています。

「誰かが悪い」という説明は、対策が後回しになりやすいパターンです。コメの時も今回も、同じ構図です。問題の本質は特定の悪人ではなく、危機に弱い流通構造にあります。

危機が去った後もその構造は変わらないのであれば、また同じことが起きるでしょう。業者名を探す目を、構造を変える議論に向けたほうが、次の自分たちを守ることに繋がると、正直そう思っています。