カスハラの意味と防止条例、「お客様は神様です」の勘違いが生む問題点

今回はちょっと真面目な話です。
※長くて硬いので気になったところを読んでください

「お客様は神様です」—日本独特のサービス業の哲学が、時には暗黒面を持つこともあることをご存知ですか?

最近、カスタマーハラスメント、通称「カスハラ」という言葉が話題になっていますよね。

この問題に対処するため、全国で初めてとなる「カスハラ防止条例」の制定が検討されています。

今回は、カスハラの現状、分類、事例、そして対策について深掘りし、その背後にある「お客様は神様です」の文化との関係について考察してみます。

 

カスハラの意味、防止条例、そして「お客様は神様です」の誤解

カスハラの意味、防止条例、そして「お客様は神様です」の誤解

カスハラとは?

カスハラとは?

「カスハラ」という語は、「カスタマーハラスメント」の略称で、顧客が従業員に対して行う不適切な要求や、暴言、身体的暴力、嫌がらせなどの行為を指します。

このような行為は、従業員の心身の健康に深刻な影響を及ぼすだけでなく、職場の環境を悪化させ、組織全体の生産性にも悪影響を与える可能性があります。

カスハラは、顧客と従業員との間のパワーバランスの不均等から生じることが多く、顧客が自分の地位を利用して従業員に対し不当な振る舞いをすることによって現れます。

カスハラは、さまざまな形態で発生することがあります。

例えば、長期間にわたる無理な要求、反復的な問い合わせやクレーム、不適切な言葉遣いや罵倒、身体的接触や暴力。

さらに、従業員を脅かす行為、無理な権威の行使、プライベートな空間での追及、インターネット上での誹謗中傷などが含まれます。

この問題は、従業員だけでなく、組織にも深刻な影響を与えるため、多くの企業や団体では、カスハラに対処するためのガイドラインや対策を講じ始めています。

たとえば

任天堂や高島屋、リーガロイヤルホテル、ホテルグランヴィア大阪、JR西日本などは、カスハラ防止のためのマニュアルを作成し、従業員が適切に対応できるように取り組んでいます。

さらに、秋田県の第一観光バスが地方紙にカスタマーハラスメントに関する意見広告を掲載し、その問題提起が全国的な議論を呼んだ例もあります。

従業員の心身の健康を守り、安全で快適な職場環境を確保するためには、カスハラに対する社会全体の意識改革が必要です。

企業や組織だけでなく、顧客自身も自分の行動が従業員にどのような影響を与えるかを理解し、尊重と共感の精神を持って接することが重要です。

 

カスハラの分類

カスハラは大きく8つのパターンに分類されます。

カスハラの分類

  1. 長期間拘束型:顧客が無理な要求や細かいクレームで従業員を長時間拘束し、他の業務ができないようにするケース。
  2. リピート型:同じ内容の質問やクレームを繰り返し行い、従業員の時間と精神的エネルギーを浪費させるケース。
  3. 暴言型:顧客が従業員に対して怒鳴りつけたり、侮辱的な言葉を投げかけるケース。
  4. 暴力型:身体的な接触、例えば蹴る、殴る、胸倉を掴むなどの暴力を伴うケース。
  5. 威嚇脅迫型:従業員やその家族への危害を示唆することで、恐怖心を植え付けるケース。
  6. 権威型:顧客が自身の社会的地位や影響力を利用して、従業員に対し不当な要求をするケース。
  7. 店舗外拘束型:顧客が従業員を店舗外に呼び出し、プライベートな時間まで侵害するケース。
  8. ネット中傷型:SNSなどのインターネット上で従業員を誹謗中傷し、名誉やプライバシーを侵害するケース。

これらのカスハラ行為は、従業員の心理的な負担を増大させるだけでなく、職場全体の士気を低下させ、組織の生産性やサービスの質にも悪影響を及ぼす可能性があります。

特に、長期間にわたる精神的ストレスは、従業員の健康を害することにもつながり、時には退職や職場離れの原因となることもあります。

そのため、企業や組織は従業員を守るための適切な対策を講じることです。

カスハラ防止のための教育プログラムの実施、相談体制の整備、そして適切な対応策の策定が求められています。

 

カスハラへの対応

カスハラ、つまりカスタマーハラスメントへの対応は、国際的な取り組みと企業レベルでの努力の両面で進展しています。

国際労働機関(ILO)は2019年、カスハラを含む職場における暴力やハラスメントをなくすことを目的とした条約(ハラスメント禁止条約)を採択しました。

ハラスメント禁止条約

この条約は、職場での安全かつ尊重ある環境を実現することを目指しており、日本を含む多くの国が賛成の立場を表明しました。

しかし、日本ではこの条約の批准については、まだ具体的なステップが踏まれていない状況です。

企業レベルでは、カスハラに対する認識の高まりと共に、多くの組織が独自の対策を導入し始めています。

特に、カスタマーサービスに直接関わる業種では、カスハラへの対応が業務の質と従業員の働きやすさに直結しています。

上の章でも書きましたが、任天堂は2022年10月、製品の修理サービスや保証規定にカスハラに関する項目を追加し、不当なクレームや要求に対してサービスを提供しないことを明示しました。

高島屋やリーガロイヤルホテル、ホテルグランヴィア大阪、JR西日本なども、従業員がカスハラに適切に対応できるようガイドラインの策定や研修の実施に取り組んでいます。

これらの取り組みは、従業員を守るだけでなく、顧客との健全な関係を構築し、より良いビジネス環境を作るためにも重要ですよね。

カスハラへの効果的な対策は、従業員のメンタルヘルスを保護し、職場の士気を高めることに繋がります。

また、カスハラを受けた従業員が適切なサポートを受けられる体制を整えることは、企業の社会的責任を果たす上で欠かせないことです。

国際的な条約の採択や企業による独自の取り組みを通じて、カスハラへの意識が高まり、その防止に向けた様々なアクションが起こされています。

このことは、職場での安全と尊重がますます重要視される現代社会において、前向きな兆しと言えるでしょうね。

 

カスハラ事例と被害統計

カスハラ事例と被害統計

カスハラの事例には、商品の微小な不具合を指摘するものから、従業員の名誉やプライバシーを侵害するようなケースまで多岐にわたります。

統計データによると、カスハラの被害を経験した企業や従業員は決して少なくないという事実が浮き彫りになっています。

統計データ

統計によると、カスハラの被害を受けた企業や従業員は少なくなく、カスハラを経験した労働者の割合は一定の高さを保っています。

例えば、2020年の厚生労働省の調査では、過去3年間にカスハラの相談を受けた企業の割合が19.5%に上り、カスハラを経験したと回答した労働者の割合は15.0%でした。

特に、サービス業をはじめとする対面業務が中心の分野では、カスハラに遭遇する確率が特に高いことが指摘されています。

これらの数字はカスハラが現代社会における深刻な労働問題の一つであることを示しています​​。

これらのデータは、カスハラが単発の事例ではなく、広範囲にわたる社会問題であることを浮き彫りにします。

特にサービス業では、顧客と従業員との直接的な接触が多いため、カスハラに対する意識の高さと具体的な対策が求められています。

これらの事実から、カスハラは個々の従業員だけでなく、組織全体にとっても深刻な問題であることがわかります。

 

「お客様は神様です」の勘違い

日本独特のサービス精神、「お客様は神様です」という文化は、長い歴史を通じて、顧客満足を極めるサービス業の基本姿勢として根付いてきました。

「お客様は神様です」は勘違い

この考え方が時に、顧客による不当な要求や、従業員に対する理不尽な振る舞い―カスタマーハラスメント(カスハラ)―を許容する環境を生み出してしまうことがあります。

文化的背景は、顧客の要求を無条件に優先するあまり、従業員の権利や心身の健康を犠牲にしてしまう場合があるという問題を浮き彫りにしています。

この認識は、従業員が自身の権利を主張しにくい環境を作り、カスハラに対する抑止力が働きにくい現状を生んでいます。

カスハラが問題視されるようになってきた現代においては、顧客と従業員双方の健全な関係を築くためにも、この「お客様は神様です」という概念に再考が求められています。

企業や組織が従業員教育を強化し、カスハラに対する正しい認識と対処法を学ばせること、さらには顧客に対しても、相互尊重の精神に基づく適切な振る舞いを啓蒙する取り組みが必要でしょう。

また、カスハラに関する具体的なガイドラインの策定や、従業員が安心して相談できる体制の整備も、この問題に対処する上での重要なステップとなります。

結論として、サービス業における「お客様は神様です」という文化は、顧客満足を追求する上での大切な価値観である一方で、その解釈を現代の労働環境に合わせて進化させる必要があると考えます。

顧客と従業員双方の幸福と尊厳を守るために、社会全体での意識改革が求められているのはないでしょうか。

 

「お客様は神様です」はいつから?三波春夫とレッツゴー三匹

「お客様は神様です」はいつから?三波春夫とレッツゴー三匹

そもそも「お客様は神様です」はいつから言われ出したのか、気になりませんか?

「お客様は神様です」というフレーズは、昭和の歌謡界を代表する歌手、三波春夫さんによって広められました。

三波春夫さん

三波春夫さんは、いつも朗らかな笑顔と浪曲で鍛えた美声で知られ、歌謡曲に和服を取り入れたことでも知られています。

彼の真摯な観客への姿勢が、「お客様は神様です」という言葉の背景にあります。

この言葉は1961年頃、三波春夫さんと司会の宮尾たか志さんとのステージ上での掛け合いから生まれたもので、もともとは歌手としての三波春夫さんの聴衆に対する敬意を表す意味で使われました。

三波さんは、自らを神前で祈るかのように澄み切った心で歌を歌うべきだと考え、「お客様を神様とみて歌を唄う」ことを大切にしていました。

彼にとっての「お客様」とは、聴衆・オーディエンスそのものを指していたのです。

「お客様は神様です」、この言葉は後にコメディグループ「レッツゴー三匹」によって物まねのネタとして広められ、エンターテインメントの一環としてポジティブかつキャッチーなフレーズとして受け入れられました。

それがきっかけで、「お客様は神様」の概念が広く知れ渡ることになり、サービス業における顧客サービスの向上に繋がったとされています。

ただし、このフレーズの本来の意味とは異なる使われ方をされることも多く、顧客が自分の権利を過剰に主張する際の口実として使われることもあります。

三波さんの家族は、このような誤った使用に対して残念に思っており、フレーズの真意を再認識し、演者側と客側がお互いの立場を尊重し合うことの大切さを訴えています。

このエピソードは、サービス提供者と顧客との間の健全な関係を築く上で、「お客様は神様です」という言葉の本質的な理解がいかに重要であるかを示しています。

三波春夫さんの持つ深い敬意と、演者としてのプロフェッショナリズムが、今日のサービス業においても大切にされるべき価値観であることを教えてくれます。

 

カスハラの意味と防止条例、「お客様は神様です」の勘違いが生む問題点【総括】

カスハラ防止条例の制定検討は、社会がこの問題に真剣に取り組み始めた証しですよね。

しかし、根本的な解決には、顧客と従業員双方の権利と健康を尊重する文化の構築が不可欠です。

私たち一人一人が、サービス業の現場で「お客様は神様です」の言葉の真意を理解し、相互の尊重に基づいた行動を心がけることが大切だと思います。

この条例が、ただの法的な枠組みに留まらず、日本のサービス業文化の転換点となることを期待します。